2015年4月22日水曜日

素数たちの孤独



素数たちの孤独(byパオロ・ジョルダーノ)


あらすじ(「BOOK」データベースより)

スキー中の事故で脚に癒せない傷を負ったアリーチェ。けた外れの数学の才能を持ちながら、孤独の殻に閉じこもるマッティア。この少女と少年の出会いは必然だった。ふたりは理由も分からず惹かれあい、喧嘩をしながら、互いに寄り添いながら大人になった。だが、ささいな誤解がかけがえのない恋を引き裂く―イタリアで二百万部の記録的ベストセラー!同国最高峰の文学賞ストレーガ賞に輝いた、痛切に心に響く恋愛小説。


感想

この本は去年の夏くらいに書店で見かけて、表紙と内容に惹かれてなんとなく買ってからそのまま放置していたのですが、ふと思い出して一昨日から昨日にかけて一気に読んでみました。

いやー、これは面白い!久々にビビッと来ました。

結構痛くて切ない物語なんですが、主人公たちの心理描写がしっかりしているので感情移入して読めました。

特に高校時代。アリーチェはクラスのイケてる女子たちと比べて自己嫌悪に陥る。密かに憧れているヴィオラと同じようなタトゥーをお腹に入れてみたり。その後ヴィオラに裏切られたことを知ると絶望し必死にタトゥーを消そうとする。
マッティアは周りの人間と関わろうとしない。勉強だけは一人ですることが出来るからその殻に閉じこもる。

タトゥーを消そうとするアリーチェにマッティアがかけた言葉が素敵です。思春期の傷を肉体の傷になぞらえている文章がありますが、これもいいですね。

「やがて、時とともに、思春期の傷は癒されていった。傷口は感じ取れぬほどゆっくりと、しかし着実に閉じていった。傷口のかさぶたはひっかかれるとはがれたが、そのたびに、もっと黒くて厚みを増したものが頑固に復活した。そして最後には、すべすべの柔らかな新しい皮膚が欠けていた部分を補った。赤みを帯びた傷跡もやがて白っぽくなり、ついには残りの肌と区別がつかなくなった。」

周りの人物の心理描写も描かれているのも良かったです。ヴィオラにしても自身の苦い初体験が元になってアリーチェを切り捨てる訳で。親たちが年月を重ねるごとに子供に対する接し方に変化が表れるのも、親も一人の人間であることを再認識されられました。この辺はなんとなく『6才のボクが、大人になるまで。』を思い出しました。

孤独な主人公たちを素数、双子素数になぞらえているのもベタですけど好きですね。双子素数というのは「11と13」、「17と19」のように間に一つの偶数を挟んで並ぶ素数のペアのことで、マッティアは彼とアリーチェの関係を双子素数に例えています。どちらも自身と1以外で割り切ることが出来ないひとりぼっち同士であり、お互い近くにはいるけれど、本当に触れ合うにはなお遠過ぎる。

随所に理系的な知識が散りばめられているのは、作者が物理学を学んでいた方だからでしょう。それはマッティアの、世界を論理的に認識する心理描写にも表れていて、この描写がものすごく上手い。自分も一応理系なので共感できる部分も多かったです。こういった、知性を感じられる人が想像力を広げて書く文章というのはそれだけで素晴らしいです。

ちょっとネタバレになりますが、結局二人は結ばれずに終わります。ただアンハッピーな終わり方と言うわけでもなくて、それぞれが自立して自分の道を歩き出すんですね。お互い昔は素数(孤独なもの)同士だった二人ですけど、人間は時と共に変わるものであって、この先どうなのかは分からない訳です。これは希望に満ちた終わりかただと思います。